オーストラリア遠征2023のレポート~車いす陸上アスリート・北浦春香


こんにちは、インテージグループ所属の車いす陸上アスリート・北浦春香です。
昨年2月以来のオーストラリア遠征に1月18~30日の日程で行ってきました。南半球のオーストラリアは季節が日本とは反対なので、日本の本格的なシーズンインを前に実戦に挑めることはとても有益。シーズンをとおしても試合数の少ない日本とは違って、「オーストラリアでは一試合で何種目も走れる」という点もとても魅力的です。

今回の遠征の最大の目標は、フランス・バリで7月に開催される「パリ 2023 世界パラ陸上競技選手権大会」に向けた日本パラ陸上競技連盟の「派遣標準記録」(100メートル19秒59)を突破することでした。結果として目標達成には至りませんでしたが、とても有意義な経験をまた一つ積むことができ、これから迎える日本でのシーズンインにつながる遠征となりました。

レースの結果

GIO 2023 Summer Down Under Series
  • 100メートル:①20秒32(-1.5) ②21秒02(-2.1) ③20秒90(-1.1)
  • 200メートル:38秒11(-1.3)
  • 400メートル:①1分12秒42 ②1分11秒96
  • 800メートル:2分35秒73
AACT T&F Championships
  • 100メートル:①19.95(+0.7) ②20.01(+1.3)
  • 400メートル:1分12秒69

夏のはずのオーストラリアで極寒のレース!?


例年のオーストラリア遠征では多くの場合、気温が30度を超えても湿度の低い過ごしやすい夏の気候。しかし、今年はとても寒く、特に前半のSummer Down Under Seriesでは朝夕の気温が10度を下回り、日中の最高気温も22度程度しか上がらず、レースでは想像もしていなかった寒さと強風に苦しめられました。
天気や風に左右される屋外スポーツならではの難しさに直面し、好記録にはつながらなかったものの、一定のトレーニングの成果を確認できた試合になりました。

励まし合う仲間であり、競うライバルでもある国内外の選手たち


AACT T&F Championshipsでは、それまでの天気がうそのように35度を超える猛暑になりました。
エントリー選手が多かったため、運よく女子のみ、予選と決勝で100メートルのレースを2本、走ることができました。一本目で19秒台が出せたことでかなり手ごたえがあったので、二本目に風の状況がよりよかったにもかかわらず、タイムを縮めることができなかった点をとても悔しく思います。


サラ・ジェームズ選手(写真左)と

求めていた結果につなげることができず残念ではありますが、この遠征期間中、同じ大会に参加されていた日本人選手や海外選手とトレーニングしたり、障がいのクラスにかかわらずレースに出場したり、ルームシェアをしたりと、とても貴重な経験ができました。

日本では車いす陸上の選手は障がい区分に応じたクラス分けに従って、出場レースも分けられることが多いのですが、オーストラリアでは基本的に全クラスの選手が一緒に走ります。ですので、クラス分けの垣根を越えて追ったり追われたりすることができ、とても良い刺激をもらいました。

障がいの原因をカテゴリー化し、それぞれのカテゴリーの中で障がいの程度などを細分化したもの

木山由加選手(写真右)と

特に、ニュージーランドから参加していたサラ・ジェームズ選手、また日本から参加していた木山由加選手と一緒にたくさんトレーニングさせていただきました。
新型コロナウイルスの感染拡大後、日本国内でもなかなか気軽に合宿できない状況でした。ましてや今回のオーストラリア・キャンベラで開催された大会のように、オーストラリア以外から海外選手が集まったのは3年ぶりでしたので、あらためて競い合うライバルでもあり、仲間である選手がいることのありがたみを感じました。

また、オーストラリア、ニュージーランドからは多くのジュニア選手が参加していて、5年後、10年後を見据えた選手育成が着実に行われている印象でした。


2022年11月に来日、共にトレーニングしたローズマリー・リトル選手(写真右)と

2023年国内シーズンに向けて


今回目標としていたタイムには届きませんでしたが、二週間の遠征中に計9レースを終えることができ、自分の成長を確認できた部分も、これからもっともっと取り組まなければならない課題も明確に見えてきました。それが一番の収穫だと感じています。

これから始まる2023年の国内シーズンに向け、一層トレーニングに励み、良い結果つなげられるように努力していきたいと思います。


オーストラリアのパラアスリートを支える「AIS」


今回のオーストラリア遠征で出場した試合の会場はオーストラリア国立スポーツ研究所(Australian Institute of Sport:AIS)内にある陸上競技場でした。 ここは国内で言えば味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)のような場所。宿泊施設などを併設したさまざまな競技のスポーツ施設があるトレーニングセンターです。AISはさまざまな競技の選手が合宿や測定、トレーニングを行う「ハイパフォーマンスサポートセンター」として活用されています。


オーストラリアのすばらしい点はこのような施設が健常のアスリートのみのものではないこと。パラアスリートも同等に利用の対象になっていて、健常のスポーツ・パラスポーツ両方で4年に一度の国際大会のメダル候補となるアスリートの育成拠点となっています。

写真を撮影したのはAISのビジターセンターで、4年に一度の国際大会に関わるオーストラリアのスポーツの歴史やAISの歴史、活動の記録を展示している施設。オーストラリアにはパラスポーツのメダリストが多く、健常の国の代表選手やメダリストと同等に英雄のように支持されていて、レーサーや義足、メダルがたくさん展示されています。


こちらの陸上競技用車いす(レーサー)はパラ陸上のオーストラリア代表であるクート・フェンリー選手(シドニーで開催された4年に一度の国際大会のメダリスト)が使用していた物です。

また、AIS敷地内の道路はそれぞれ、過去大会のメダリストから命名。健常のスポーツ・パラスポーツの区別なく、めざましい実績を残した選手が讃えられています。

オーストラリアではこのように、パラスポーツが障がい者のスポーツの枠を超えて、「一つのスポーツのかたち」として確立されていて、とてもすばらしいと感じました。

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