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ディープラーニングの登場で激変したマーケティングの未来

ディープラーニングの登場で激変したマーケティングの未来

この記事は、大企業で人工知能(AI)を活用したいと考えている担当者の方を読者として想定している。AIスタートアップとのオープンイノベーションを検討している、GAFA※1などのテクノロジープラットフォームが提供するAI技術の活用を検討しているといった方々だ。

私自身は、長年、国内外の企業でマーケティング領域のデータサイエンスに向き合ってきた。
その経験をもとに、同分野での人工知能活用の可能性と課題について、全4回にわたり私的な見解を述べたいと思う。

 

 

ディープラーニングの登場で激変した人工知能

ビジネスへの人工知能の活用を検討されている方だったら、ディープラーニング(深層学習)についてもご存知の方が多いかもしれない。人工知能は「冬の時代」と呼ばれる長い停滞期があったのだが、ディープラーニングの登場によってその状況が大きく変わった。

ディープラーニングの登場後、コンピュータにできる知的処理の適用範囲が広がり、性能水準も格段に高まった。ディープラーニングが実装されたAlphaGoが現れるまで、コンピュータが人間の囲碁のチャンピオンに勝利することは絶対に不可能だと思われていた。ディープラーニングによって音声認識や画像認識の性能が飛躍的に向上したことは、GoogleやAmazonなどのサービスを利用しているユーザーなら誰もが同意するはずだ。また、それまで単語翻訳ぐらいしかできなかった機械翻訳もディープラーニングの実装で人間のバイリンガルと同程度の性能を発揮するまでになった。

このディープラーニングというブレイクスルーにより人工知能のビジネスへの活用は、かつてないほどの世界的な「ブーム」となっている。AI銘柄として認識された新興企業は、売上高や利益などの財務指標では説明がつかないほどに株価が高騰しており、ユニコーンと呼ばれる未上場企業のほぼ全てが何かしら人工知能の活用を謳っている。世界最大のVCであるソフトバックビジョンファンドもAI企業にしか投資しないことを宣言しており、GAFA+MやBATH※2をはじめとする世界最大のテクノロジー企業群のすべてが、人工知能の研究と実装に最高の人材と膨大の資金を費やしている。

 

ディープラーニングが変えるマーケティングの未来

私はこれまで高度な統計解析や機械学習などを活用して、クライアント企業や自社に対してデータに基づいたマーケティングの意思決定、そして各施策の投資対効果の可視化に取り組んできた。
そのようなデータサイエンスの領域においても、ディープラーニングは間違いなく導入されていくだろうと予測している。

例えば、ディープラーニングによって性能の改善した音声認識や自然言語処理を利用すれば、事前にプリセットされた選択肢方式のアンケートに依らずとも、自由記述や自然な会話の中から生活者のニーズを定量化することができる。また最近では、オンラインだけではなく店頭などのオフライン行動もデジタル化によってログが蓄積されるようになったが、それらの解析にもディープラーニングの自由度の高いパターン認識能力を活用すれば、新たなユーザーセグメントを見つけることができるだろう。

特に相関関係やデータ分布を重視する従来の統計解析とは異なり、ディープラーニングは人間が直感的に行うのと同じように非線形で重層的なパターン構造を理解することができる。そのため、絵画や音楽、文章などの類似度を判断するといった単純なルールベースでは困難な処理が、ディープラーニングでは人間と同じように行えるようになる。これを生活者の理解という文脈で考えれば、従来の統計解析のアプローチでは見落とされていたような、かつ人間なら直感的に理解するであろう新たな切り口をディープラーニングによって獲得できる可能性がある。

そして、従来は人間が行うか、精度の悪い機械学習に頼るしかなかったこのような認知処理を、ディープラーニングに置き換えていくことによって、スケーラブルかつリアルタイムに目の前の消費者を理解し、適切なマーケティングアクションを実行するための基盤が整うようになる。これらの能力を獲得した企業と従来通りの企業との間には、数年で大きな差がついていくことになるだろう。

しかしながら、国内大企業におけるマーケティングでのディープラーニングの活用を見ると、まだ十分に浸透しているとは言いづらい状況にあり、そこにはいくつかのハードルがあるように思う。そのハードルについては、第2回にて掘り下げていきたいと思う。

 

※1アメリカ合衆国に本拠を置く、主要IT企業の総称
※2中華人民共和国を代表する通信会社の総称

 

巳野 聡央(みの あきひさ)
MINO COMPANY 代表

慶應義塾大学総合政策学部卒。 調査会社にてキャリアをスタート。その後、コンテンツ投資会社を経て2007年に独立。さまざまなプロジェクトに参画しながら、2011年にGoogle入社。同社ではエンジニアや統計専門家を含むグローバルチームと共に広告効果測定プロダクトの開発、およびAPAC・日本国内における普及活動に従事。アドテクノロジーを活用した実験計画、多次元時系列データから因果を推論するベイジアンモデリング、深層学習や機械学習を使ったオンラインログデータの解析など、最先端のマーケティング・サイエンスのプロジェクトを主導。2018年末にコンサルティングおよび新規事業開発・投資事業を行うMINO COMPANY(正式名称:MINO合同会社)を設立。

Data Science, Research Areas