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課題設定力×データサイエンス力を伸ばす教育プログラムへの挑戦

課題設定力×データサイエンス力を伸ばす教育プログラムへの挑戦

急速なデジタル化の波により大規模なデータが取得できる昨今、国内外のあらゆる企業において、データを分析・活用する動きは活発です。このような状況の中、データを分析・活用する「データサイエンティスト」は、非常需要が高い職業といえますが、他方、国内外で圧倒的に人員が不足していると言われています。

こうした中、データサイエンティスト人材を育成するアプローチの1つとして、国内で初めてデータサイエンス学部を設立した滋賀大学。今回は、その滋賀大学のデータサイエンス学部 河本薫教授にお話を伺いました。

 

(左から:小金悦美, 河本薫教授)

 

―ビジネスで培ったものを伝えていく

2001年より大阪ガスの中でデータ分析を専門とする組織の中で、今につながるデータサイエンスの仕事を行ってきました。その当時は、まだ世の中にビックデータとかAIという言葉はありませんでした。ビッグデータという言葉が普及しはじめたのは2011年ぐらいからでしょうか。それまでずっと地道にやってきた、データを分析して会社にバリューをもたらすという行動が、当時はそういったことをしている人は一握りだったこともあり、注目を浴びました。
2011年からは、その分析専門組織で管理職を拝命し、分析専門の組織をいかに会社の中で定着させるか?という課題にも取り組みました。具体的には、若手のキャリアパスをどう描くのか、データ分析や組織そのものの価値を経営層にどのように理解してもらうのか?ということに取り組んでいました。

2013年には“会社を変える分析の力”という本を出版しました。この本は、分析を実際にビジネスに活かすために、「解く力」だけではなく、「見つける力」「使わせる力」が大事であることを伝えた本です。結果、ありがたいことに、この本に共感をいただいた方々との人脈を作ることができました。

さまざまな方とお話をしていく中、自分自身の今後の人生について考えることが増えました。社会にどのように貢献する形で自分の人生を使うか?の解の1つとして、これから社会に飛び込む大学生に、ビジネスで成果を出せる実践的なデータサイエンスを教えることは、ビジネスの社会でデータサイエンスを実践してきた自分だからこそできることでないかとの思いから、2018年4月より滋賀大学の教員になることを決断しました。

 

―健全な価値観と不健全な価値観

元々、人に教えるということをしてみたいという思いはありました。自分の今まで生きてきた経験値を若い方々に提供したい、と。ただ、これは自分の価値観を押し付けるということではありません。学生自身が、興味があること・やりたいことを自分たちで見つけられるようになってくれればいいな、と考えています。学生は問題を解く・答えを導き出すことに長けています。正解のある問題をいかに早く・正確に回答するといった方法論にはものすごく興味があるし、解いたときに喜びを感じる人も多いです。
ただし、自分自身で問題そのものを作ることに対しては少し希薄。興味自体も無い気がしていて、そこは危惧しています。なので、教える際に大事にしていることは価値観が不健全にならないようにすることです。健全な価値観を伝えるというよりも、不健全な価値観にならないようなケアをしています。

価値観が不健全とは何かというと、手段が目的化することです。データサイエンスの中で分析とは、あくまで目的を達成するための行為であり方法であり要素でしかありません。データ分析で問題を解いても、現場の人が分析結果をしっかりと活用してくれて、業務プロセスが変わらなければ意味はありません。データサイエンスの方法論を教えていく上で、どうしても問いと解があります。このデータと分析力で問題を解くというプロセスが、これまでになかったプロセスであるため、それを目的だと錯覚してしまうケースが多いのです。

分析自体は目的ではありません。分析を価値あるものに、常にどうすればよいのかを考えることが大事です。分析が目的化することは不健全な価値観だとしっかりと伝えることで、手段が目的化していないか?ということに敏感になり注意力が働きます。結果として、健全な価値観を自らが模索し、手段である分析や、そのアウトプットに工夫ができるようになると思っています。また、考えた工夫は将来の“課題設定力を高めること”につながると思っています。

個人的な見解なのですが、データサイエンティストとして活躍するには、新しい課題を見つける力、つまりは課題設定力が特に重要です。データがあってお題があって、これを解いてくださいという仕事はビジネスにおいてはありません。漠然とデータがあり、分析力を活用して会社にバリューをもたらしてください、というような仕事になります。その状況だと、方法論だけだと正直厳しい。ビジネスにおいて活躍するためには、自力で道を開く、自分の力で課題設定をできるような人材にならなくてはいけません。僕はそうした力を伝えていきたいと思っています。

 

―産が連携して初めて型にできる

今年の春、滋賀大学のデータサイエンス学部が設立して初めてのゼミが始まります。学生はいよいよ座学が終わり、より実践的な力をつけていくステージです。私のゼミでは、方法論を深めるのではなく、ビジネスの現場で役立つ全体的な力。課題設定力やコミュニケーション力を培っていくようなプログラムにしたいと思っています。

具体的には、学生には、大学にいながらも企業内での実際のデータ分析のミッションを与えたい。それもそのテーマも教科書の付録に載っているようなものではなく、企業が直面する実課題について、です。実データを使って課題を設定し、解決策を考える機会を与えたいのです。

学生には、その機会を通じて、自らが問題を発見し、仮説を立てて、それに沿ってデータ分析を行い、導き出した解決策を人に伝える、そういった一連の流れを学ばせたいと思っています。また、さまざまなテーマを経験させたい。ゼミは2年間あります。1つのテーマに半年くらいだとすると卒業までに4つのテーマに携わることができます。

さまざまなテーマを経験する。それもリアルな。このプログラムを実践するためには企業のサポートは必須です。今回、多くの企業と接点を持ち、かつ、生活者に向き合う大量のデータを保有されているインテージさんに真っ先にお願いをしました。さまざまな企業の課題解決に真に寄り添うインテージとの連携だからこそ、リアルなデータサイエンスを学生に伝えていけると信じています。このような産学連携の教育はデータサイエンスの世界では日本にはないチャレンジです。この取り組みを通じ、教育の1つの型ができていくといいな、と思っています。

学生の選択肢を増やし、可能性を広げるために、さまざまな教育の在り方があっていい。自分ができることはビジネスの現場での経験値を学生に伝えること。これにより学生の将来が少しでもより良いものになってくれればいいな、と切に願っています。まだまだ自分自身も勉強中で道半ばなのですが、卒業生が企業に勤めて活躍し、「河本にあのとき教えてもらったことが役に立ちました」と言ってもらえるよう、頑張っていきたいと思います。

 

・河本先生プロフィール

滋賀大学データサイエンス学部教授
兼データサイエンス教育研究センター副センター長
1989年 京都大学工学部数理工学科卒業。
1991年 京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修了。
1991年 大阪ガス入社。
1998年 米ローレンスバークレー国立研究所でデータ分析に従事。
2018年4月1日より現職。

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