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日常生活下における行動データの収集-ウェアラブルデバイスを用いた実験-

日常生活下における行動データの収集-ウェアラブルデバイスを用いた実験-

1. 要約

本研究では、近年急激に発展するセンシング技術を活用したマーケティングリサーチ手法の可能性を検討するため、我々は、日常生活で日々変化する生活者の行動データを客観的かつ経時的に収集する方法論の検討・実計測を96人の一般消費者対象に28日間実施した。結果、本研究で採用したウェアラブル活動量計Fitbit Charge3とアンケート調査を組み合わせる実験手法で行動・アンケートデータを十分収集することができた。さらに、特定の商品カテゴリーにおいて、行動データとの関係性を確認することができた。

 

2. 研究背景

マーケティングリサーチ、特に消費者行動研究分野は、消費者個人の内面の把握に軸足を置いた研究が進んできたが、近年さらなる発展が期待される3つのテーマが示された(井上ら 2018)。第一に消費者の非認知的側面に関する研究、第二に消費者の感覚と認知バイアスに関する研究、第三に消費者が生み出す社会的ダイナミックスに関する研究である。近年のセンシング技術の発展と、モバイル・ウェアラブルの普及により、今まで実験室実験でのみ実施していた消費者の生理・心理・行動に関する実験は、フィールドでの実験が可能となり、消費者をとりまく環境でのデータ収集、また、消費者の環境そのもののデータ収集が可能となった。さらに、これらのデータを簡易に客観的かつ自動的に収集できるようになったことから、消費者間の収集タイミングのずれや、消費者自身の意識に左右されないデータ収集も可能となった。ゆえに、これらのセンシング技術は、マーケティングリサーチ領域、特に第一の消費者の非認知的側面に関する研究、第二の消費者の感覚と認知バイアスに関する研究において、積極的に活用されていくと考えられる。

 

3. 研究目的

本研究では、日常生活で日々変化する生活者の行動データを客観的かつ経時的に収集する方法論の検討・実計測を実施することとする。また、センシング技術を活用したマーケティングリサーチ手法への応用の可能性について検討する。具体的には、当社保有のお買い物データを使用し、行動データと購買の関係性を分析する。

 

4. 実験方法

実験参加者に実験説明書とFitbit Charge3を配布し、28日間 Fitbit Charge3を装着し、行動データを収集した。過去に当社の従業員を対象として、本実験設計に近しい実験を3ヶ月間実施した。その際、2ヶ月目から徐々に不良回答が増えたことから、本実験では確実にデータを収集できると見込まれる1ヶ月間を実施期間とした。実験参加者には、基本的に入浴以外の時間に装着してもらうよう指示をした。加えて、Webアンケートを用いて28日間5設問程度のアンケートに毎日回答してもらった。このアンケートでは、Fitbit Charge3のデータに乖離がないか確認する目的で実施した。(例:Fitbitを装着しているが、クラウド上にデータが保存されていない状態の判明など)実験開始日前と実験終了後に健康習慣指数:Health Practice Index(森本2000)や健康自己意識(Shimoda A, et al. 2019)などのアンケートを実施した。健康習慣指数は、実験開始前と実験終了後でライフスタイルの状況が大きく変わっていないかを確認する目的、健康自己意識は、Fitbit Charge3のようなウェアラブルデバイスを常時装着することで健康意識が芽生える可能性があるかを確認する目的で実施した。

 

4.1 実験参加者

リクルーティングは、当社専属モニターの内、継続的に買い物データを収集しており、かつアンケート調査やグループインタビューやホームユーステストなどを通して、より深い意識情報を収集することのできるモニター群(仮サービス名称:SCI®-ext)を実施対象とした。リクルーティングで事前に同意を得られた102名の内、実際に実験に参加した96名(30歳~59歳までの男女)を本実験の分析対象者とした。

 

4.2 実験手順

実験参加者は、図1のように入浴以外の時間にFitbit Charge3を装着して実験期間の28日を過ごした。加えて、1日5設問程度のWebアンケート回答してもらった。実験参加者には、実験開始前に実験内容の理解とFitbit Charge3の設定を行い、1日の流れに慣れてもらうことを目的として、実験開始7日前に機器と実験説明書を配送した。なお、この7日間は本番期間と同様にアンケート回答も実施できるようにした。

 

図1

図1 1日の実験の流れ

 

4.3 取得データ

本実験では、歩数、睡眠時間などFitbit Charge3から14項目のデータを取得し、毎日の購買データも取得した。

 

5. 実験結果

5.1 収集データ

各ログの収集データ数を表3に、実験期間中の収集データ数の推移を図2に示す。買い物ログについては、毎日買い物をするとは限らないため、他のログよりも収集データ数が少なかった。買い物ログ以外のログは、毎日80%程度のデータが収集できた。

 

平均値(日) 標準偏差
買い物ログ 8.3 7.5
歩数ログ 26.6 4.3
睡眠ログ 24.2 6.0
アンケート 27.9 0.4

表1 収集データ数

 

図2

図2 収集データの推移

 

5.2 継続意向と負担度合

本実験の継続意向を図3に示す。本実験の負担度合を図4に示す。約80%の参加者が継続意向を示し、本実験は負担ではないと回答した。

 

図3

図3 継続意向

 

図4

図4 負担度合

 

5.3 行動データと購買の関係:有意差検定

実験期間中のFitbit Charge3から収集できる各データについて、個人平均値を算出し、個人平均値より数値が高い日、低い日の2組に分け、各購入カテゴリーの購入数に有意差があるか検定を行った。なお、実験期間中に購入された商品を中分類(例:食品・飲料)と小分類(例:食品・飲料・炭酸飲料)に分け、購入数51個以上かつ、購入数が全体の3%以上のカテゴリーを分析対象とした。分析結果を図5に示す。

 

図5

図5 カテゴリー別購入数の平均値とp値一覧

 

5.4 行動データと購買の関係:回帰分析

説明変数として、実験期間中のFitbit Charge3から収集できる各データの相関係数が高いデータを除外し、移動距離・座位時間・睡眠効率・睡眠時間を使用した。最小値0、最大値1に正規化(MinMaxScaler)し、Lasso回帰分析を実施した。分析結果を表4に示す。

 

表3

表3 回帰係数

 

6. 考察

本研究では、日常生活で日々変化する生活者の行動データを客観的かつ経時的に収集する方法論の検討・実計測を試みた。

第一に、本研究で採用したFitbit Charge3とアンケート調査を組み合わせた実験手法で行動・アンケートデータは毎日約80%の参加者から収集することができた(図2)。また、本実験手法は、参加者に負担が少なく、継続意向が高いことが示された(図3)(図4)。より長期的にデータを収集できるか、後続研究が必要であると考える。

第二に行動データと購買の関係性を分析した。個人平均値より数値が高い日、低い日の2組に分け、各カテゴリーの購入数に有意差があるか検定を行った結果、小分類では5カテゴリー、中分類では3カテゴリーで有意差が認められた(図5)。回帰分析の結果を加味すると、座位時間が長くなる、もしくは睡眠時間が短いと、食品・主食・麺類の購入数が増える傾向があることが明らかになった(表3)。

 

7. 今後の展望

本研究では、日常生活で日々変化する生活者の行動データを客観的かつ経時的に収集する方法論の検討・実計測を実施することを主目的としていたため、購買データが十分に収集できなかった。購買との関係性について、詳細な研究を行うためには、参加者数を増やし、実施期間を延ばした検証が必要である。また、実施期間を延ばした際の参加者の負担度合や継続意向を引き続き調査したい。

 

8. 著者

小林 春佳*1
*1:株式会社インテージ 開発本部 先端技術部

 

9. 参考文献

[1] 井上淳子, 赤松直樹, 斉藤嘉一, 寺本高, 清水聰. マーケティング・サイエンスと消費者行動研究の接近と乖離, マーケティング・サイエンスVol. 26 No. 1 pp. 41 - 63, 2018

[2] 森本兼嚢. ライフスタイルと健康. 生活衛生(Seikatsu Eisei)Vo1.44 No.1 3-12,2000.

[3] Shimoda A, Hayashi H, Sussman D, Nansai K, Fukuba I, Kawachi I, Kondo N. Our health, our planet: a cross-sectional analysis on the association between health consciousness and pro-environmental behavior among health professionals. Int J Environ Health Res. 2020

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