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Data Science Fes 2019 ビジネスデベロップメントフォーラム

Data Science Fes 2019 ビジネスデベロップメントフォーラム
~「うまい、やすい、はやい」の原点回帰で"次の120年"をめざす吉野家ホールディングスへのマーケティング支援を紹介~

11月11日(月)、東京・千代田区のJPタワー ホール&カンファレンスで行われた「Data Science Fes 2019 ビジネスデベロップメントフォーラム」(主催:日本経済新聞社)の企業講演に株式会社吉野家のCMOである田中安人氏とともに、アルゴリズム事業準備室の室長・小金悦美と当社グループのデータサイエンティストである竹村が登壇。2019年に創業120周年を迎えて「『飲食業の再定義』への挑戦」を長期ビジョンに掲げる吉野家に対し、データサイエンスによって多角的に支援している取り組みを「事例から導くビジネスのAI化に向けたプロセスと見えてきた課題」と題してプレゼンテーションした。

 

 

創業から120周年を迎えて"原点回帰"でV字回復中の吉野家を支援

1899年(明治32年)創業の吉野家は今年、120周年を迎えた。誰もが知る大手外食チェーンとして新メニューや新店舗のオープンなどは、つねに注目を集める存在だ。

その吉野家の経営はいま、大きなブレークスルーの時期にある。原材料費や人件費の高騰、牛丼チェーン店同士の競争激化など経営を取り巻く環境が年々厳しさを増しているからだ。"次の120年"へ向けて同社は2015年に長期経営ビジョン「『飲食業の再定義』への挑戦」を策定。データの活用を通して、消費者の購買履歴を積極的に販促へ生かしていく取り組みを加速させている。

そのキーパーソンが、CMO(Chief Marketing Officer)の田中安人氏だ。

「マーケティングの専門家として、吉野家の商品開発、企業としてのコミュニケーションのあり方、そしてPRと幅広く経営の根幹に関わっています。昨年、6年ぶりの通期赤字になった要因はやはり、メニューのジャンルと種類を増やしすぎたこと。牛丼チェーンでありながら、定食店のようなメニュー展開を進めてしまったことにあると思います。吉野家の原点はやはり『うまい、やすい、はやい』牛丼を提供することです。この"原点回帰"への取り組みを象徴するのが、『"飲食業の再定義"への挑戦』という長期経営ビジョンです」(田中氏)

長期経営ビジョン「『飲食業の再定義』への挑戦」をひもとくキーワードは「人」、「健康」、「テクノロジー」の3つ。もう一度、顧客が吉野家に求めるものを見つめなおすともに、安心・安全なメニュー提供のためにテクノロジーを導入・活用する姿勢を表している。

この取り組みがさっそく結果に結びつく。日本経済新聞が10月30日(水)付で報じた2019年2月期決算企業の上期における純利益進捗率で吉野家は実に1870.0%という驚異的V字回復を達成したのだ。年初来の株価上昇率も40%超を記録した。

「3~8月期の最終損益が2年ぶりに黒字に転換したというニュースはとてもうれしかったですし、マーケティングの側面からサポートさせていただいている立場として大きな励みになります」(小金)

 

飲食業にとっての生命線「商品力」、「オペレーション」、「出店計画」の強化をめざす

マーケティング領域からビジネスを支援するにあたってインテージと吉野家との間でまず策定されたのが、飲食業にとって"生命線"と言える「商品力」、「オペレーショナルエクセレンス」、「出店計画」の3つをデータの力でさらに強化していくことだ。

「『商品力』とはまさに、おいしい牛丼を提供しつづけていくということ。それから吉野家の強みはなにかというと"エクセレントなオペレーション"なんですね。『うまい、やすい、はやい』のなかの『はやい』。早いだけではなくて、エクセレント。つまり、スマートにスピーディーに牛丼を提供するスキルです。これはどの外食チェーン、牛丼チェーンにも負けない自信があります。お客さまからの評価も高い」(田中氏)

業界トップクラスと評価の高い吉野家の「オペレーショナルエクセレンス」をデータの力でどう強化していくのか。小金から、データ収集プロセスと課題解決のための方向性、検証プロセスを手がけたデータサイエンティストの紹介があった。

インテージのデータサイエンティスト、竹村は入社以来、機械学習の応用・システム開発に従事してきた経験をもつ。

「いま田中さんから紹介があったとおり、吉野家の店舗でのオペレーションはとてもすぐれていますが、そこからさらに工数を削減できないかというのが課題でした。まず、各店舗にいるスタッフが週次で手動で行っている入客数予測を自動化することによって工数削減できないかと考えました」(竹村)

そのために活用したデータは、店舗の所在地や席数、メニューの価格や材料、客数や個数、売上金額など細かなデータ、CMやSNSなどを使ったキャンペーン情報、気温や降水量などを含む天気データなどであったという。

「こうしたデータを活用するわけですが、学習期間と検証期間とに分けて予測値にどれくらい誤差が出るかをチェックしました。これをくり返すことで、予測精度の推定をしました」(竹村)

この結果、予測自動化の仕組みの導入・活用で店舗のスタッフが経験と勘にもとづいて実施していた入客数予測の精度をさらに向上できる可能性が示されたという。一方で、この結果を仕入れやシフト管理など店舗の運営に必要なシステムに反映させていくためには、すでに稼働している大規模な基幹システムと連動させていく必要があるなどの課題が明らかになった。

 

"匠"と呼ばれるスペシャリスト1人が手がける「出店計画」はAIで定量化可能か?

牛丼チェーンを含む外食産業全体で激化する競争を象徴しているのが「出店計画」だ。吉野家の場合、1店舗あたり数千万円の投資が必要なだけでなくその回収期間は5~6年になる。事業全体を左右する最重要のビジネス課題と言える。

「実は吉野家では、この出店計画を『匠』と呼ばれるスペシャリストが1人で担当しています。なかなか珍しいケースだと思いますが、職人とも言えるベテラン社員が出店する場所から店の規模などを1人で考えて出店していくスタイルですね」(田中氏)

少子高齢化が進む日本ではいま、頻発する自然災害のリスクとあわせて企業のサステナビリティ(持続可能性)が大きな課題になっている。吉野家でも、出店計画を1人で担う「匠」の技を次の世代へと継承していく必要性を痛感しているのだ。

「いわゆる"職人の技"と言われるものをAIによって機械化できないかという課題ですが、これにはオペレーション以上の複雑なゴール設定やモデル設計、検証プロセスが必要でしたね」(小金)

「出店計画のすべてを機械化するのは難しいので、まずは収集データ、加工データの精度を検証するためのモデルを設計しました。その際に、ビルのテナントになっている店舗と独立している店舗との差やドライブスルーなどの設備やサービス、立地場所や周辺の飲食店・競合店の有無などを考慮する必要がありました」(竹村)

ここで課題になったのは、店舗の立地場所周辺の変化を把握できないことだ。

「つまり出店する前は、周辺の商圏に関して競合店舗の有無や店舗数などのデータを収集・加工できますが、出店後はデータを収集しないので最新のものを活用できないという課題がありましたね」(小金)

飲食業にかぎらず、事業会社でデータサイエンティストが直面する「収集・加工可能なデータが入手できない」問題である。必要なデータの策定と新しい収集・加工方法を見いだしていくには、「匠」=ヒトに代わって経験や感覚からデータを収集できる画像・映像解析技術の導入・活用が必要となる。

まとめとして小金は講演のテーマである「ビジネスのAI化に向けたプロセスと見えてきた課題」について総括した。

「前提として言えるのは、AIの導入・活用でなにを機械化・自動化するのかという『事業目的の明確化』が必要です。そして、必要なデータが入手できない場合、そしてヒトが経験と勘などの感覚で判断していることをどうやって定量化していくのかが大きな課題だと感じました」(小金)

業務の合理化・効率化なのかコスト削減なのかによって、現在、ヒトが手がけている業務のどの部分にAIを導入・活用していくのかが変わる。さらに時系列で常に最新のデータを入手していくにはどんなアプローチや手法が必要なのかも考慮する必要がある。そのうえで、ビジネスの現場でヒトとAIとがどんな業務を手がけていくのかが大きな課題だ。すでに稼働している大規模な基幹システム、業務システムとの連携も必要になる。また、新たな設備・将来への投資は今後、経営判断が求められる最重要課題となっていくだろう。

 

来條 貴史
株式会社インテージホールディングス
アルゴリズム事業準備室 特命担当

ハウスメーカーでの営業経験後、人材関連企業・Webメディアにてマーケティング・新規事業開発業務に従事。2009年よりマーケティングリサーチ会社複数社にてBtoBマーケティング組織の立ち上げ、戦略構築、企画運営を統括。 2019年インテージ入社。アルゴリズム事業準備室に参画。

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