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Data Science Fes 2019 オープニングフォーラム
~滋賀大学との産学連携教育推進の取り組みと手ごたえ~

Data Science Fes 2019 オープニングフォーラム
~滋賀大学との産学連携教育推進の取り組みと手ごたえ~

9月30日(月)、東京・千代田区の一橋講堂で行われた「Data Science Fes 2019 オープニングフォーラム」(主催:日本経済新聞社)に滋賀大学の河本薫教授、電通関西支社の湊康明氏とともにアルゴリズム事業準備室の室長である小金悦美が登壇。インテージホールディングスが滋賀大学データサイエンス学部のゼミへの支援に取り組んだきっかけ、そして支援を通して感じた手ごたえについて「産学連携教育への挑戦~滋賀大データサイエンス学部1期生と共に歩んだ4か月~」と題してプレゼンテーションした。

 

 

きっかけは、データサインエンスの第一人者・河本教授がめざす"熱い思い"

データサイエンス分野の人材教育および産学連携教育の推進を目的とした協定に基づく取り組みのきっかけは、滋賀大学の河本教授からの相談だった。同大学は2017年に日本で初めてデータサイエンス学部を設置。その1期生が3回生となり、この4月からゼミの授業を始めるにあたって、河本教授からビジネスの現場で役立つ課題解決力を身につけるためのデータの提供と、育成プログラムについて具体的なアドバイスが欲しいというオファーだった。

「まずわたしが感じたのが、"共感"を超えた"感動"です。学生からの要望でマーケティングの分野で役立つデータサイエンスがテーマになったということでしたが、河本先生ご自身は大阪ガス出身。マーケティング領域は専門外とのことで私どもに相談がありました。将来、学生たちがビジネスの現場に立ったときに活躍できるような知識とスキルが身につくゼミにしたいという河本先生の"熱い思い"から実現した取り組みです」(小金)

小金の紹介でマイクをとった河本教授はビジネスの現場で役立つ知識とスキルについて「『役立つ』と『分かる』とは似て非なるもの」と指摘。

「ビジネスの現場で『7日先の需要を誤差3パーセント以内で予測』とか『特定の機器が1か月以内に故障するかどうか予測』のような具体的な依頼があると思ったら大間違い(笑)実際に直面するのは、売り上げが落ちているから購買データを分析して対策を練ってくれ、とか、工場で不良品が多いから製造データを分析して解決してくれといった課題です」(河本教授)

つまり学生たちが実際に社会へ出て、ビジネスの現場でデータサイエンティストとして活躍していくためには、現場で役立つ"対策力"そして"解決力"こそが求められるという現実的なニーズだ。

「僕はこのゼミが目指すものを大学の医学部のようなものと捉えています。大学の医学部では医師をめざす学生への臨床実習として、『問診』『検査』『治療』のプロセスに必要な知識やスキルを現役の医師でもある教授が教えます。そのために必要な実習が付属の大学病院などでできるようになっています。ところがデータサイエンス学部にはその"大学病院"にあたるものがない。そこでインテージにサポートしていただくことにしました」(河本教授)

医師をめざす学生が知識とスキルを身につける臨床実習のプロセス(問診、検査、治療)を、河本教授はデータサイエンティストに当てはめ、「課題発見」「データ分析」「問題解決」と定義。ゼミではこのPBL(Project Based Learning)がしっかり身につくプログラムにしていくことを考えていたのだ。

 

実在するチョコレートブランドの売り上げアップを目指す

ゼミでのPBL演習では「課題発見」のプロセスで電通が事例や最近の傾向を紹介。「データ分析」のプロセスをインテージが担当して、実際の購買データ(SCI)や店舗売上データ(SRI)、生活者のデイリートラッキングデータなどを提供するとともに、データがもつ意味の説明や代表的な分析手法などについてレクチャー。

「ゼミの授業は4月から7月の下旬にかけての15コマでしたが、前半の7コマが終わった時点で『一次発表』。最終発表の2コマ前に『二次発表』と学生たちが自分たちの分析からみた対策・解決方法を発表する場を2回設けました。中間発表で指摘されたことを、しっかりフィードバックできる仕組みです」(河本教授)

例えば、あるチョコレートブランドの売り上げが「50代女性」に限って特に低い傾向にあるデータを分析し比較・検証したチームは、トラッキングデータにファネル分析、コレスポンデンス分析、決定木分析、ロジスティックス回帰などを組み合わせることで、50代女性への訴求ポイントと売上アップをめざす具体的な施策、効果予測までを発表するといった次第だ。

「最初はゼミの課題だからと受け身だった学生たちが、実際のデータと直面している課題に向きあうことで、解決を目指すことのやりがいや有意義さに気づいて、だんだんと前向きになっていくのが興味深かったですね。特に、そのチョコレートを買ってほしいターゲット像を購買パネルの属性データや世論調査データなどからライフステージ、職業、生活や心理までを具体的に描くことが必要だというところに気づきが多かったように思います」(小金)

参加した学生たちからの声として、「ターゲットを絞るのと正解のない施策を考えるのが一番難しかった。もっとロジカルシンキングを勉強したい」、「自分で手を動かしてやった結果に対してどこが良くなったかアドバイスをもらえるのがとてもよかった」「普段の学習では学べないリアルな学び(データの世界に閉じこもってはいけないことやビジネス規模の重要性など)ができ、ー中略ー、本当によかった」などの感想が寄せられた。

なお、河本教授も、学生たちに次のような"学び"があったと紹介した。

1.「分かる」→「役立つ」への価値観の改革
2.分析手法やプログラミング以外に学ぶべきことがある
3.「分析手法」と「プログラミング」をさらに学びたいという動機づけ
4.「自分でもこれぐらいだったらできる」という自信の醸成

 

創業からデータに向きあってきた企業として、今後も産学連携教育推進に貢献

プレゼンテーション後半には、小金から代表取締役社長の石塚純晃からの次のメッセージを通してインテージホールディングスが産学連携教育推進に取り組む意義を紹介した。

「ビジネス課題解決力を持つデータサイエンティスト育成に、創業よりデータに向き合ってきた会社の責務として貢献していきたい」(株式会社インテージホールディングス 代表取締役社長 石塚純晃)

「インテージのようにビジネスサイドから教育をサポートすることで、マーケティング上の意思決定やマーケット全体の正しい把握、データ活用ニーズの把握といったビジネスの現場で活躍できるデータサイエンティストにとって必要な『ビジネス力』を身につけることに貢献できると考えています」(小金)

その背景として小金が指摘したのが、ビジネスの現場が直面しているデータ活用における課題である。競争が激化している市場では、さらにスピーディーな意思決定が求められており、ITの普及で多彩なデータが活用しやすい環境が整いつつある一方で"意思決定につながるアウトプット"を具体的に提示できるデータサイエンティストが不足しているという現状である。

次いで、電通関西支社の湊康明氏にバトンタッチ。学生時代にビジネスシーンをイメージすることの必要性を伝えた。ドラえもんの「秘密道具」がつくりたくて大学院に進んだ湊氏、勉強がまったく楽しくなくなった経験を通して、勉強がどう社会還元されるのか、"イメージする力"こそデータサイエンティスト教育に必要と強調。

「マーケティングという観点からデータサイエンスの実習を経験することで、データサイエンスはビジネスシーンでの意思決定手法になるという意識をもってもらうことができたと思っています。河本先生が指摘されるとおり、ビジネスサイドはデータ分析ができる人材が欲しいのではなく、データ分析の意義や価値を理解して自発的にデータ分析の活用手法を提案できる人材を求めています」(湊氏)

湊氏は、成熟化しマーケティングも精緻化され正解が量産される社会にあって、どうイノベーションを起こしていくのかが問われているとも指摘。その具体的なサポートとして「DENTSU JAM!」や「WAGRI」といったプロジェクトに電通が取り組んでいることを紹介した。

「データサイエンティストとしての知識、スキルを身につけた人材にビジネスマインドをインプットすることで教育とビジネス双方の領域を横断して『共創』を実現できる"翻訳者"のような人材を輩出していく価値は大きいと考えています」(湊氏)

プレゼンテーションのしめくくりとして、河本教授から「インテージ、電通のサポートで、理想的なプログラムが実現できて大きな手ごたえを感じました。この取り組みを継続して、ビジネスの現場で活躍できる人材をさらに育てていきたい」との将来展望が語られた。

 

来條 貴史
株式会社インテージホールディングス
アルゴリズム事業準備室 特命担当

ハウスメーカーでの営業経験後、人材関連企業・Webメディアにてマーケティング・新規事業開発業務に従事。2009年よりマーケティングリサーチ会社複数社にてBtoBマーケティング組織の立ち上げ、戦略構築、企画運営を統括。 2019年インテージ入社。アルゴリズム事業準備室に参画。

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